エッセイ
エッセイ : 「私の三泊四日・・・サクランボの思い出」
「私の三泊四日・・・サクランボの思い出」 大木晴子
今年も500グラム入ったサクランボのパックを両手に持って35年前のあの日を思い出し、その味を確かめながら幸せな時を過ごすことが出来ました。
1969年の7月も太陽がまぶしい暑い夏でした。
http://seiko-jiro.net/modules/bulletin/index.php?page=article&storyid=506
私は「草の根通信」に掲載された文章にも書きましたが、新宿西口地下広場が通路に変わり、「道交法違反」で14日の昼間に勤めていた出版社近くで「令状逮捕」されました。
三泊四日のその時間は、いまでは考えられないほど、人情味あふれた人々との出会いを、思い返しても貴重な体験だったと思えるのです。
最初に連れて行かれた新宿署では、私は「黙秘します」と言っても向こうは「せいこちゃん」と呼んでそれは親切な対応でした。
私は、“悪いことしていない”と思っていますから普段より観察力が働いて見るもの聞くもの珍しく、テレビで見る取調室と違うなぁーなんて思ったり、菊屋橋警察署への移動では、鉄格子の入った車の窓から神保町の交差点が見えると思わず「会社の側だわ」と大きな声で言ってしまったり、いま思い返すと若かったなぁーと苦笑しています。
今はわかりませんが、当時は女性だけの留置場が菊屋橋署にはありました。私もそこへ送られました。
身体検査があり、ヒモになるような下着は取られ私は二人部屋へ入りました。
同室の女性は、歳は30少し前ぐらいそれは美しいお姉さんでした。
二人で向かい合い膝を立てて座ると、高い天窓から「友よ・・この闇の向こうには・・・」と聞き慣れた声が響いてきました。私は立ち上がり流れる涙を両手でふきながらみんなの歌声に震える唇を合わせていました。
不思議そうに見ていたお姉さんは、「どうしたの」と声をかけてくれました。
私は西口でのこと、令状逮捕されたことそして仲間が支援の為に歌ってくれている事を話すと彼女は「あんた、幸せな人だねぇー」と。
お姉さんを見ると涙を流していました。
歌が聞えなくなって、また向かい合って座ると「あんた、『つつもたせ』知ってるかい」と聞かれました。
「いいえ」と答えると連れ合いと一緒に捕まった様子を詳しく話してくれました。(自由の身になった時、辞書を引いて初めてつつもたせが美人局と書くのだと知りました。そして、その言葉の向こうには、辛い悲しい思いをしている人がいるのだとこの時、学ぶことが出来ました。)
食事の少し前に、看守のおじさんに呼ばれました。
小さな部屋に通されると机の上にきれいな赤い、可愛いサクランボの入ったパックが置かれていました。
「洗ってあるから食べなさい」「差し入れだからね」と優しく伝えてくれました。
嬉しかった!美味しかった!いまもその時食べたサクランボの味を思い出すことが出来ます。
あれから35年、毎年この季節が来ると情が感じられた人々との出会いを懐かしく思い出し、サクランボを差し入れてくれた連れ合いに感謝しているのです。(おおきせいこ)
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