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エッセイ
エッセイ : 『鈴木一誌・エッセイ』第二回 日本人の顔
投稿者 : seiko 投稿日時: 2009-03-12 20:06:27 (2592 ヒット)
『鈴木一誌・エッセイ』第二回
     日本人の顔

 写真家の荒木経惟さんが「日本人ノ顔プロジェクト」にとり組んでいる。日本全国のひとびとのポートレートを、各県ごとに荒木さんがひとりで撮り、さらに各県ごとの分厚い写真集にまとめていこうという計画だ。被写体は、ひとりもいれば、カップルや家族、あるいは幼い兄妹だけのケースもある。すでに『大阪ノ顔』(2002年)『福岡ノ顔』(03年)『鹿児島ノ顔』(03年)『石川ノ顔』(04年)『青森ノ顔』(06年、いずれも「日本人の顔プロジェクト」刊)と出版され、現在『佐賀ノ顔』が進行中だ。ほぼ一年に一冊のペースだから、四七都道府県すべてを撮り終わるのには、あと四〇年はかかる計算で、途方もなく遠大な計画なのだが、すでに撮り終えたショットを見るだけでも、二一世紀初頭の日本人がどんな顔で、いかなる家族観をもち、服装や持ち物などの嗜好がどうだったのかが伝わる、空前絶後の記録となることがわかる。

 無料で荒木さんに自分もしくは家族を撮ってもらえるとあって、応募が多数集まり、「日本人ノ顔プロジェクト」のメンバーが、結果的におよそ四〇〇組を選ぶのだが、選ぶといっても容姿やスタイルによるのではなく、撮られるひとの住まいが県全域に、年齢や職業も適度に散ったほうがよいとの配慮からだ。

 ブックデザインを手がけることもあって『石川』『青森』『佐賀』の撮影に立ちあったことがある。時期をずらしながら県内の三箇所で撮影することが多く、青森県では、弘前市、青森市、八戸市だった。百貨店の一区画や公民館などを借りて仮設のスタジオをこしらえ、朝から夜まで百数十組、のべ二百人以上をつぎからつぎに撮るのだが、荒木さんの撮影ぶりは実にていねいだ。どんなひとにも、フィルム二本を費やし、声をかけ、相手を笑わせながらシャッターを押していく。

 子どもには「ボク、肩車でいいねー。おしっこすんなよ」と語りかけ、母子のゆるんでいく表情をフィルムに定着させていく撮影風景を見ながら、人間の顔はずいぶんと変わるもんだな、と感じる。大型カメラのシャッター音がガシャンガシャンと響き、荒木さんの声を受けとめている五?一〇分のあいだに、〈素顔〉がのぞいてくる。荒木さんはときおり、男性のネクタイを直したり、女性の髪をフワリとさせたり、絶妙な〈スキンシップ〉をする。この瞬間、ドラマチックに被写体の顔が輝く。自分が考えている〈自分〉の輪郭がほどけ、殻がゆるんでいく。

 問題は、荒木さんという〈ハレ〉の力に拠らずに、自分で、日ごろの自分の顔をいかに輝かせることができるかだ。通勤電車から降りたつ男女の顔は仮面をかぶり、そういうわたしの顔も、相手からは無表情に映っているのだろう。

 『佐賀ノ顔』撮影の帰り、夕刻の福岡空港で搭乗を待っていると、となりのロビーが騒がしい。飛行機の出発が遅れるらしい。やがて航空会社からアナウンスがある。一万円で、早い便を譲ってくれる客がいないかを尋ねている。当該便よりさらに一時間ほど遅い便があり、一時間でも早く帰着したい客の要求にこたえるために、航空会社は一万円を支払うというわけだ。スーパーマーケットで買い物をするときの数円のちがいは大きいが、一万円を差しだすと告げる空港では、なぜか大勢がひっそりとしている。ひとびとは〈飛行機に乗る〉顔を演じているのだろう。そして、早い便を譲る客もかならずいるにちがいない。「顔を撮りにきて、さいごは横っツラを万サツでひっぱたたく場面になっちゃったなぁ」と、荒木さんと顔を見あわせた。  グラフィックデザイナー・ 鈴木一誌(すずき ひとし)




「私が出会った沖縄の人たち」09年2月 撮影:大木晴子

『鈴木一誌・エッセイ』第一回

「市民の意見30の会」 ニュース『市民の意見』NO105(2007年12月発行)に
掲載されたエッセイを筆者のご承諾をいただき再録させていただきました。
写真は、こちらで添付しました。これからも続けて掲載してまいります。
09-03-12(おおき せいこ)

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