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エッセイ
エッセイ : 『鈴木一誌・エッセイ』第19回  空気のようなデザイン
投稿者 : seiko 投稿日時: 2014-01-03 00:03:45 (2449 ヒット)


『鈴木一誌・エッセイ』第19回
空気のようなデザイン
 ある日、町を歩いていると、商店街や路地沿いの一角が更地になっている。建替えなのだろうか。それまでどんな商店や建物が存在していたのか、思いだせない。はじめは湿り気のある土色をした空地も、数日も経つと雑草が生えはじめ、またたくまに緑の繁茂するスペースとなってしまう。一定の植物が地面を占有しつづけることはなく、背の低い草々が土地を覆いつくしたあと、やがて背の高い植物にとって代わられる。背丈の大きい種類も枯れ、あらたな芽吹きを見る。そんな遷移が繰り返されていく。「雑草という名の植物はない」と指摘したのは、昭和天皇だったか。
 雑草を見るのは、楽しい。なぜなら、人為的なデザインとは無縁だからだ。雑草が、アスファルトの路面やコンクリートの側壁の小さな隙間から顔をのぞかせ、土砂崩れを防ぐために構築された巨大なセメントの壁面の微細なひび割れに根づいている。そんな光景を目にしたひとも多いはずだ。人間がどんなに完璧を期しても、植物は人造物の弱いところを突いてくる。弱いところとは、水の浸透する箇所だ。
 雑草を見ることは、デザインされてないモノを見る数少ない機会だ。道行く人びとの服装も持ち物も、ビルディングも、すべてなんらかのデザインがされている。人びとの身体や顔貌もまた、演出されていると言ってよいだろう。入れ墨やピアスを施された人体も目に付く。あらゆる商品は、デザイン行為を通過しているのではないだろうか。家のなかの品々も同様だ。稲や野菜は、品種改良がなされている。登山をするにしても、登山道と標識は整備され、トイレも清潔なのがよい、と思ってしまう。グランド・デザインなどと口走る人間もいる。
 デザインは、世界に空気のように浸透した。わたしたちは、デザインに包まれて安心する。拡散したデザイン世界を象徴するできごとが起きている。〈電子書籍〉である。以前にも紹介したが、わたしと友人デザイナー・戸田ツトムとで責任編集をつとめているデザイン批評誌『d/SIGN』誌で、「電子書籍のデザイン」を特集しようと作業中なのだが、「電子書籍のデザイン」とはなにを指すのか、考えだすとむずかしい。アイパッドやキンドルのような、端末と呼ばれる工業製品のデザインなのか。その端末の画面から電子書籍を呼びだしページを開くまでのインターフェースについてなのか。映しだされるページのすがただろうか。さらには、現在、世界に各種ある電子書籍のフォーマットをめぐる話か。あるいは、電子書籍をいかに流通させ課金するかのマーケットにまつわる話題なのかもしれない。どれかが正しい設問なのかではなく、すべての問題が〈電子書籍〉に集中しているのだ。
 本が世界を映す装置だからこそ、本の世界の地殻変動とも言える電子書籍に、世界の様相が凝縮されている。電子書籍が普及すれば、とうぜん、ブック・デザインという職業に影響を及ぼすのだから、わたしは、「電子書籍のデザイン」の当事者であるはずなのだが、なかなか当事者意識がもてない。電子書籍はあらゆる読者の問題でもあるゆえに、全読者が当事者であるとも言える。空気のようなデザインの裏返しである。
 現在の電子書籍は、街角の更地のようなものかもしれない。デザイン的に未解決の問題が、渦巻いている。多様な雑草が入り乱れながら生い茂っている空き地のようだ。更地にはやがて新しい建造物が出現するように、電子書籍なるフィールドも、ルール化された座標に覆われていくのだろう。だが、電子の本であっても、読書は、けっしてデザインされない、想像力の支配する野放図な行為であることを信じたい。
グラフィックデザイナー・ 鈴木一誌(すずき ひとし)



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「市民の意見30の会」 ニュース『市民の意見』122号(2010・10・01)に
掲載されたエッセイを筆者のご承諾をいただき再録させていただきました。
写真は、こちらで添付しました。これからも続けて掲載してまいります。
(写真撮影:大木晴子)
14-01-03(おおき せいこ)

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