エッセイ
エッセイ : 「あなたの妹に産まれて・・・・」
(兄、山本良夫が大好きだった松井田で咲いた花が届きました。)
「あなたの妹に産まれて・・・・」 大木晴子
私は昨年の12月の初め頃から気がつくと休む前にやっていることがありました。
それは、インターネットで「防人の詩」の曲だけが流れるサイトを訪ね兄が好きだったこの歌をうたっていました。
「僕は、二番が好きだ」と言って一緒に口ずさんだ時のことを思い出しながら曲の中に身をゆだねていました。
兄が息をひきとった後、直ぐにかかった「防人の詩」をうたっている時に、「毎日、歌っていたよ」と心の中で兄に報告をしていました。
私は、この日のために歌の練習をしていたのかも・・・・。
29日の朝に亡くなった兄、葬儀が行われる二月一日までの時間も義姉と二人の息子に兄は、その足跡をしっかりと示しました。
一緒に「第九」を歌ってきたお仲間40人近くの皆さんが兄を囲みミニコンサートを開いてくださいました。二階の居間まで何人もの車いすを使われる皆さんがゆきわりそうのスタッフに抱きかかえられ上り下りしながらその優しさにあふれた時間がありました。最後にお一人の方が「『長崎の雨』を歌わせて下さい。」と言われて、涙声になりながら歌って下さったこの歌も私には、大切なものになりました。
兄と向き合って共に仕事をしてきた皆さんが次々と訪ねて下さったようです。ゆきわりそうを退職した皆さんの半数近くの方が兄を偲んで駆けつけてくださったと義姉は穏やかな顔で話してくれました。
式が執り行われる落合斎場へ向かう兄を家族と私たち兄弟で見送りました。私と15歳違いの一番上の兄と良ちゃんの顔を何度も何度もさすりました。
会場に入ると花の香りがしました。献花だけの静かな式、さだまさしさんの歌声に包まれて・・・・。
この光景の中で、私は何年分かの涙を流したような気がしています。たくさんの皆さんが、昨年12月に行われた「ゆきわりそうミュージックパーティー」で私が撮った笑顔の兄の遺影の前で、あわせた手の震え、つぶやく口元、震える肩から優しい兄を見つめる眼差しを感じ、「皆さん、ありがとう」と感謝の思いで胸がいっぱいでした。
新宿西口で反戦意思表示をしている皆さん方、何も知らせていないのに私のページを読み駆けつけてくれた友人、涙が止まりませんでした。
式場の外の様子など、連れ合いが撮ってくれた写真を後で見て再び思いがこみ上げてきました。
私は棺の中に手紙と兄のことを書いた最後のニュースそして兄が好んで愛用してくれた「明日も晴れ」PEACEのバンダナを入れました。
家から送り出す時も最後のお別れの時も私は言いました。
「あなたの妹に産まれて良かった。幸せだった・・・ありがとう。」
兄は、亡くなる一週間前、松井田で昨年収穫したひょうたんを一つ私にくれました。「そこに、スローガンを書きなさい。これから足のマッサージなどしてもらった時にカンパを入れるから」と・・・。「ジュゴンを守ろう・・・・」と書いたひょうたんにその日、兄はカンパを入れてくれました。
そのひょうたんのカンパ入れは、これから西口で立つ私の横に置きたいと思っています。
兄が亡くなる二日前、我が家に可愛い和紙で出来た「招き猫」がやって来ました。連れ合いが取材先で買って来てくれたものです。私はこの猫ちゃんに「良ちゃん」と名前をつけました。涙が溢れそうなとき「良ちゃん」と声をかけるかなぁー・・・きっと。
私は、これからも憲法九条を大切に愛し平和への道を揺るぎなく歩いた兄の背中を見ながら兄のように見上げない、見下ろさないの気持ちを大切に過ごしていきたい。(おおきせいこ)
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