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エッセイ
エッセイ : 『湯呑み』
投稿者 : seiko 投稿日時: 2006-03-17 03:02:12 (2883 ヒット)


『湯呑み』      大木晴子

 大きくなり過ぎて悲鳴をあげた泰山木の手入れをお願いした。
急な頼みを快く引き受けてくれた職人さんたちに
「お昼は作らせて頂きますね」と約束をして・・・・。
当日は豚汁を作り、おにぎりを握った。
そして湯呑みを用意しながらふと40年近く前の
風景を思い出していた。


 父が亡くなり母の老後を考えて母屋と合わせて
アパートを建てることになり大工さんが初めて来た日に母は、
客用の揃った湯呑みでお茶を出した。
夕方皆さんが仕事を終えて帰ると「晴子、買い物に行きますよ」
と誘われ母は真っ直ぐ瀬戸物屋に向かった。
そして、湯呑みが並ぶその前で楽しそうに選び始めた。

 少し大きめな寿司屋さんで使うような茶碗を持って
「これは親方さんね」そして可愛い花の模様や
茄子など野菜も市松模様もあった。
全部が違う模様の湯呑みが幾つも並んだ。

 翌朝、職人さんが来ると母は楽しそうにそれぞれの湯呑みに
お茶を注ぎ一人ひとりに手渡していた。
「今日から皆さんの湯呑みです。ご自分の絵柄を覚えて下さいね」
と少し照れながら伝えていた。

 毎日湯呑みは、母の漬けた漬け物や温かい汁物と一緒に
出されて、元気な大工さんたちの声を聞きながら家の完成の
日を一緒にむかえた。

 職人さんたちの最後の日、何時のようにお茶を出すと一番若い
見習いさんの男の子が母に言ったそうです。
「奥さん、この湯呑みを頂けますか。僕の初めて仕事でした。
とても楽しく仕事が出来ました。記念に頂けますか。」・・・・と。
すると他の人も同じように頭を下げられたそうです。
 
 母は、とても嬉しそうにその時の様子を話してくれました。
一緒に買いに行った瀬戸物屋さんのことや
大きな樽に漬け込んだ白菜漬けを毎日
「美味しいです。とても」と言って食べてくれた職人さんと
向き合って過ごしたその何ヶ月間は、
母の大切な思い出の一つに・・・・。
あの湯呑み、きょうも何処かで・・・・・。
(06-03-17・おおきせいこ)

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