反戦・平和
反戦・平和 : 「大変な読書家――小田実さんを悼む」吉岡忍【「喪友記」2007.08.04日経新聞】
(2002年 春 ベトナム)
「大変な読書家――小田実さんを悼む」吉岡忍(ノンフィクション作家)
小田実さんが亡くなった病室には、分厚い英語の本が山積みになっていた。とっさに私は、40年ほど前のベトナム反戦運動のころを思い出す。
『何でも見てやろう』の作家はベ平連(ベトナムに平和を!市民連合)を発足させ、十代の私はそこで反戦バッジを作ったり、脱走米兵をスウェーデンまで逃がす地下活動をやっていた。小田さんがニューヨークやパリを駆け回ってもどってくると、よくお茶や食事に連れていってもらった。
「面白いで。読めよ」
大きく重い旅行鞄(かばん)からはいろんな本が出てきた。あるときはN・メイラー『なぜぼくらはヴェトナムへ行くのか?』、別のときはK・ヴォネガット『猫のゆりかご』、その次はD・ハルバースタム『ベスト&ブライテスト』……。サルトルやチョムスキーやハワード・ジンのこともあった。
いまでこそ邦訳のある著述家たちだが、その当時は未知の人もいる。どういう書き手ですか、と聞くと、「ボストンでいっしょに歩いた。デモしてきたんや」などという返事がもどってくる。小田さんはほとんど彼らと会ってもいた。
小田さんは大変な読書家だった。大きな教養もあった。それでいて、小田実の小説や評論は、その誰のものとも似ていなかった。驚くのは、むしろそのことである。
【「喪友記」2007.08.04日経新聞(朝刊)】
(2006年9月9日ボストン、ハーバード大学前)
吉岡 忍 (よしおか・しのぶ) プロフィール ──ノンフィクション作家。1948年、長野県生まれ。早稲田大学政治経済学部中退。87年、日航機墜落事故をテーマにした『墜落の夏』で第9回講談社ノンフィクション賞受賞。他に『日本人ごっこ』『鏡の国のクーデター』『放熱の行方』など。最新刊は、宮崎勤、酒鬼薔薇聖斗などの異常犯罪を取材した『M/ 世界の、憂鬱な先端』(文春文庫)。
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